カテゴリ:自作小説『 静かなる雨音 』( 7 )

静かなる雨音 7



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久々の更新です。

過去の内容は、
カテゴリ
『 静かなる雨音 』へどうぞ


では、本文へ。。。









  その違う景色というのが
 山脈が見渡せるベランダのある部屋だったのだ
 キッチンから壁を一枚隔てた畳の部屋で
 夕美は洗濯物を畳んでいる
 ちょうど 夕日が西の山に沈んでいくところだ

 「 晩ごはん 食べていくんでしょ? 」
 「 うん 」
 「 そういう時は『おねがいします』って
   言うんだよぉ  もうぅ。。。 」
 「 うん 」

  もう しょうがない子ね、、、
 と言いたげな顔をして
 夕美はベランダの手摺にもたれている
 遥一の背中に
 両手と右の頬をつけてもたれた

  遥一は
 夕美の体を求めなかった
 興味がないわけではない
 ただ”求めなかった”
 夕美も遥一と
 接吻(くちづけ)をするだけで幸せだった
 それも
 唇と唇が触れ合う程度の

  まだ32歳
 すべてを達観しているわけではないのだが 
 今は
 とりあえず 今は
 遥一とのセックスを考えないようにした
  10代後半や20代前半のような
 灼けるようなものは欲していない
 ゆっくりとした流れの中でいれればいい
 それは
 川の流れというよりも
 むしろ
 森の中に浮かぶ静かな湖の
 湖面に プカリ と浮いているような。。。
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by Akira-1206 | 2011-10-07 08:25 | 自作小説『 静かなる雨音 』

静かなる雨音 6

 


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  早く
 一日でも早く
 一緒になりたいと願ったのに
 いざ 暮らし始めてみると 
 とても 窮屈に感じた
 どこか 別の場所に 行きたかった
 どこか 別のベランダから
 晴れた空や 
 雨の日曜日を
 眺めてみたくなった


  遥一にはガールフレンドがいた
 宝子 だ
  宝子と遥一とは
 もう かれこれ 3年近くの付き合いになった
 宝子は27歳
 遥一よりも1歳年下だ
 実家暮らし 弟と妹がいる
 幼い頃から面倒見が良いと 両親にも
 ご近所の奥様連中にも 評判だった
  宝子が遥一と付き合い始めて1年ほど経ったころ
 遥一から
 「 もう 夜に帰るの やめないか? 」
 と言ってきた
 もともと一人暮らしだった遥一
 そこに宝子が すっぽりと入り込み
 2人の暮らしは 始まった








  しかし
 1年と もたなかった
 生育環境の違い か 性格の不一致 か
 相手を許容できない【 若さ 】というのもあった
 とにかく 宝子は実家に帰った
 両親は ひとまず 安心はしたものの
 落胆もした
 宝子の両親は 遥一を買っていた
 だからか 
 「 別れなさい 」
 とも 言わなかった
 もちろん 宝子も 別れる気など さらさら無かった
 
  好きだったのだ
 好きに理由などない



  遥一はというと
 宝子が実家に帰ってからのほうが
 宝子を求めるようになった
 それは
 同棲を始める前にも増して

  しかし
 遥一は
 別の景色を求めていたのだ
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by Akira-1206 | 2011-09-01 22:50 | 自作小説『 静かなる雨音 』

静かなる雨音 5

 






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  「 どうしたの? 」
  「 、、、ぅん? 」
  「 ぇいやぁ、、、なんか、宇宙の果てまで飛んでいってたよ 」
  「 ぅん、、、ぁあ、、、ごめん、、、 」
  「 別に謝る必要 ないよ 切なそうな瞳だったよ 」

   遥一は夕美の
  顔を斜め下から眺めていた
   
   遥一は寝転がっている
  手のひらで受けている側頭部と
  肘が当たっているカーペットと
  高級自転車のブレーキレバー
  のような鎖骨を頂点にした
  三角形を作りながら


   「 そろそろ 夕食の支度 するね 」
   「 あ うん ありがと きょう なに? 」
   「 久しぶりにコロッケ作ろうかなっ どう? 」
   「 うん 」

   遥一は
  いわゆる” おふくろの味 ”に
  拘らなかった
  だから
  夕美のつくる食事にも
  一切 注文をつけることはなかった
  出来上がった品々を おいしそうに頬張るだけだった
  静かに ゆっくりと   
   
   


   夕美は好きだった
  蒼くやさしい瞳(め)をしている 遥一のことが
  しかし
  「 青 」ではなく
  「 蒼 」だ

   その瞳で
  時折 遠く冷たい視線を送る
  なにかに対してやりきれない視線を送るのだ
  伏目がちに 左斜め下を見つめる
  非常に冷たい瞳だ
  そして
  そんな時は 大抵 奥歯を噛みしめている

   遥一の右手首には 幾重もの
  細い肌色の糸が巻き付いている
  これを見れば
  遥一が 左利きだということが 
  明らかに 察することが出来る
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by Akira-1206 | 2011-08-28 19:11 | 自作小説『 静かなる雨音 』

静かなる雨音 1

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  雨が静かに降っている
 それは大人の恋に似ている
 

  空のねずみ色
 山と木々のみどり色
 せせらぎの透明な黒
 それらのすべてに雨は惜しみなくその身を預けている
 それは正しく『 愛 』だ
 ゆっくりと時間が過ぎてゆく
 雨はやさしくふりそそぎ
 大地のすべてはその全身で受け止めている

  どうしようもないこと
 いくら考えたところで
 われわれ人間の及ぶところではなさそうだ
 引き出しにしまって
 鍵をかけて
 その鍵も燃えないゴミに出せばいい
 
  でも きっと
 いつか きっとその引き出しごと
 いや つくえごと
 どこかに投げつけて壊してしまうだろう
 そして もういちど中身を確認するだろう
 そのとき 
 きっと
 蒸発しているだろう

  でも あくまでも  
 だろう 
 推量
 ずっとそこにあるかもしれない
 推量仮定
 いや
 ずっとそこにあってほしい
 継続の願望
 
 人生の辛酸
 人生の機微
 すんなりの人生なら
 いま ここにはいない
 すんなりではない人生だから
 涙を流すのか
 曲がりくねった道だから
 ひとにやさしく生きているのか
 不器用に愛するから
 魅力的なのか
 自分に嘘をつけないから
 他人から文句を言われても黙って受け止めるのか
 いつも死を意識しているから
 生への渇望がほとばしっているのか
 自分を信じて止まないから
 まっすぐな瞳なのか


   いまが現在
  そしてこれが過去
  そして未来への糸口

 人生は楽しくて苦しくて悲しくて哀しくて
 そして 愛おしい
 愛おしい
 いとおしい
 まだ 
 死ぬわけにはいかない



 
 * 写真は丹波の黒豆のオブジェ

 
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by Akira-1206 | 2011-08-27 23:45 | 自作小説『 静かなる雨音 』

静かなる雨音 2



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 「 いつまで、この雨なのかな? 」
 「 今週いっぱいらしいよ 」
 「 ふ~ん、、、 」
 「 ん? どうして? 」
 「 ううん、、、」

  少し日に焼けたような浅黒い肌の青年・遥一と
 静脈が透き通るような色白の少女・夕美
 ふたりの恋が始まったのは
 去年の秋
 お互いの友人たちが集まる
 湖畔でのバーベキューで知り合った
  どちらかが急激に惹かれたというわけではなく
 自然にその距離を縮めていった
 まるで
 春の桜の蕾が綻(ほころ)ぶように
 夏の山々が色づくように
 
 「 やだなぁ、、、 」
 「 なにが? 」
 「 ぅん、、、だって、、、 」

  なにか言いたげな夕美を
 もうすでに死者が3人も出た
 岡山県津山市が舞台で繰り広げられている
 連続殺人事件の推理小説を読んでいる遥一が
 ソファに座りながら横目で怪訝そうに
 その上やさしく彼女の様子を窺っていた

 「 だって、、、洗濯物が乾かないの、、、 」
 「 あぁ そうか、、、でも しょうがないよね、、、 」
 「 ぅん そうなんだけど 」
 「 太陽と風で乾いた洗濯物、、、すごい良い香りがするのよ 」
 「 それって 洗剤の香りじゃないの? 」
 「 ぇ? ぁあ、、、それもあるんだけど 」
 「 え? ほかにもあるの? 」
 「 うん、、、ほのかに香るんだ、、、あなたが、、、 」
 「 え? おれ? 」
 「 あなたの香りがするの 」
 「 このTシャツ 洗っても あなたの香り するの 」
 

  女性はもしかすると男性よりも男性かもしれない
 ”臭い”でパートナーを選ぶ傾向が強い
 嗅覚は
 過去にそれを嗅いだ瞬間の
 視覚 聴覚 味覚 触覚
 そして
 ”好き””嫌い”までをも瞬時に判別させる
  女性は男性よりも発毛時期が早い
 頭髪 腋下 陰部 脛部 
 毛はにおい(フェロモン)を拡散させるフィン(ひだ)である
 その襞(ひだ)から発する香り(いや「臭い」)は
 臭いが強い男性よりも
 ずっと強いのかもしれない
 だから
 ”女性は男性よりも男性”と考えてしまう
 その香りに誘われて男性は女性に近づいてゆく
 
  そこで女性は男性の香り(いや やはり「臭い」だ)を
 嗅ぎ分ける
 その男性の顔つき 肉体の均衡 手の大きさ 
 よりも
 もしかすると そちらを大事にしているのかもしれない
 自分の臭いに近いもの
 より近いものを選ぶ

  でもなぜだ
 2枚目俳優 2枚目お笑い芸能人 海外の超が付くほどの2枚目
 たちのほうを
 いつも 目を輝かせて 潤んだ瞳で 奇声を上げて
 「 カッコいいぃぃぃぃ~~~~~~! 」
 と言っているではないか
 彼らに寄り添いたいと訊けば
 「 もちろん! 」と即座に応える
 一般的な男性からは
 大気圏をも超えているほどの向こう側の存在
 そちらに行けば良いのではないか

  ちがうのだ
 女性は
 高揚しているときは目を見開くが 
 落ち着いているときほど
 目を閉じる
 目を閉じていても 
 はっきりと判断できるのは
 味覚 聴覚 触覚
 よりも
 嗅覚 なのである
  ほとんどの女性は
 冒険も求めるが
 落ち着きを要求する
 まるで
 「 自分のお気に入りのアロマ 」を
 嗅いでリラックスしているかのように
 そして 目を閉じれば
 その暗闇の先には
 憧れの有名人たちが次々と犇(ひし)めき合っているのだ
 やもすると 女性は非常に想像力の豊かな動物なのかもしれない
 それで いいのだ
 遠い存在よりも
 近い「臭い」




 しかし
 全く違う種類の臭いを選ぶ瞬間がある
 それが『 恋 』なのかもしれない

 「 えぇ!? わかんなかった、、、 」
 「 おれ そんなにくさいの? 」
 「 ぅうん、、、落ち着くの 」



 「 すごく落ち着くの 」



 「 まるであなたがわたしを抱いてくれているときに
   わたしが下からあなたの胸に顔をつけているみたいなの、、、 」

 「 あぁぁ、、、そうなんだ 」
 「 でも やっぱり くさいってことなのかなぁ? 」
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by Akira-1206 | 2011-08-27 23:44 | 自作小説『 静かなる雨音 』

静かなる雨音 3

 



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  「 そうじゃないよぉ、、、 」
  「 で、でも、、、 」
  「 アタシはあなたの臭いが好きなの 」
  「 ぅん いや、、、判るけど、、、 」
  「 田んぼがいっぱいあるところをドライヴした時にね 
    農家のおじさんが枯れ草を焼いてたじゃない?
    あのにおい、、、好きなんだぁ、、、
    あんな感じ
    すごい懐かしいっていうか、、、
    落ち着くっていうか、、、 」
  「 まぁ、、、俺も夕美の香り 好きだしな 」
  「 えっ? アタシ してる!? 」
  「 クククっ、、、 すごい してるよぉ 」
  「 やだぁ~ えっ?えっ? どんなの? 」
  「 クククク、、、 いや、、、いいにおいだよ、、、 」
  「 もぅ、、、 アタシも曲がり角だしね しょうがないか 」
  「 そうそう! 」
  「 笑いすぎ! 」




    遠くで子供たちの遊ぶ声が聞こえる
   少し雨が上がったようだ
   ふたりは 笑いながら ソファで手を繋いでいる
    テレビを点けかけたが
   「 雨の音を聴きたい 」と遥一が言ったので
   夕美は持ちかけた選局操作装置をゆっくりと置いた

    


    夕美は32歳
   2年前に離婚した
   こどもはいない
   26歳で結婚したのだが  
   パートナーがそれを期に
   まったく彼女を求めなくなった
   実家の母親は
   「 もうすこし 」というだけだった
   義父母は
   「 一度 排卵検査に行くべきではないかしら? 」
   と自分の可愛い息子の生殖機能不能を棚に上げていた
   調停裁判では
   本人と義母が雁首揃えて御出席であった


   
  「 雨 止まないね 」
  「 しょうがないよ 梅雨なんだし 」
  「 遥一って 大らかというか のんびりというか、、、 」
  「 なに? 」
  「 それがいいんだけどね 」


    夕美は
   もちろん 
   一人暮らしである
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by Akira-1206 | 2011-08-27 23:44 | 自作小説『 静かなる雨音 』

静かなる雨音 4

  


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       *おことわり*
   多数の御閲覧、誠に有難う御座います。
  今回で4回目になりました
  『 静かなる雨音 』ですが
  引用やコピーや盗作ではありません。
  正真正銘の自作小説です。
  何故だか急に文章や台詞が空から降ってきました。

   というわけで 
  今後ともどうぞ宜しくお願い致します。

  ****************
  




   夕美は8階建ての7階
  3LDKのマンションに住んでいる
  大都市近郊の政令都市
  元夫と共同で購入した物件
  離婚調停の際に慰謝料として住むことになった
  ありきたりな調停裁判
  知り合いから訊いた内容よりもすんなりと進んだ
   悪いことなんてしていないのに
  妙な罪悪感を感じてしまう部屋
  男女2人の裁判員が席をはずす度に
  ブラインド越しの曇った空を見た
   「 不毛 」

   3回の接見で
  最後は二人で並んで認印を押した
  司法権が絡んでいるオブラートのような紙の前では
  まるで2人の罪人が
  「 もう二度とここにはお世話になりません 」
  と頭をうなだれているようだった
   婚姻届は
  ダイニングテーブルで向かい合って
  瞳孔を開ききって  
  口角を上げながら 
  お互い見つめ合って
  「 あ ちょっと中心 ズレちゃった 」
  と舌を出して笑ったら
  「 でも これも この2人らしいよね 」
  って言ってくれたのに 
     
   無表情だった
  裁判所のその時だけではなく
  生活そのものが
     
  ありきたりな慰謝料だった
  だから
  ありきたりな男だったのだろう
  そう思うしかなかった
  何が欲しかったのだろう
  妻である自分を求めず
  自分の子孫をも残そうともせず
  財産もあっさりと手放した

   

   いくら考えても もう他人になってしまった
  もう 考えるだけ 無駄 
  だから 夕美は 何も考えないことにした
  仕事に打ち込んだ
  幸か不幸か 子供がいなかったので やりやすかった
  給料も同年代からすれば多いほうだった
  もともと浪費癖はなかったのでそこそこの貯蓄もあった
  結婚時代も束縛されていたわけではなかったので
  一人になったからといって
  ストレス発散の為の買い物にも出掛けなかった
  もちろん 暴飲暴食にも走らなかった

   だから



  新しい恋なんて見つかるはずもなかった
  居酒屋やバーで酔い潰れれば
  それを介抱してくれて 
  何らかの進展もあったのだろうが
  そういうのも全く期待しなかった



   でも


   2~3ヶ月に1度
  「 アタシ、、、このまま、、、 かなぁ、、、 」
  と洗濯物が入った洗濯機に洗剤を入れながら
  スイッチを押していた
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by Akira-1206 | 2011-08-27 23:43 | 自作小説『 静かなる雨音 』